「キカイ」の子
「鍬原さん…入るよ。」





夏美の病室の前に来た冬彦が、軽くックした後に言った。







中から返事はなかった。







冬彦は、少し迷ったが、病室の引き戸を慎重に開けた。







部屋の中に電気はついておらず、窓から差し込む月明かりだけが部屋を照らしていた。








そんな幻想的な空間の中、夏美は白いベッドの上に、座っていた。






彼女の顔はいつもと違って、全く元気がなく、彼女は暗い空に浮かぶ月を見ていた。







「鍬原さん…」





冬彦が、そう言いながら夏美に近づくと、彼女は冬彦の方を見た。






その顔は月明かりに照らされ、透き通るほどに白かった。
< 110 / 363 >

この作品をシェア

pagetop