「キカイ」の子
「…高椿君?どうしたの?」



健一は、夏美から目を移して、冬彦に心配そうに訊いた。



え…?



冬彦は驚いて、初めて自分がどんな顔をしているのか気づいた。











冬彦は泣いていた。






今の話に悲しい場面などないのだが、冬彦は涙を流していた。







それは、昔の自分を思い出して、流した涙だった。









昼も夜も、あの無機質な部屋の中で一人で勉強していた。

どんなに泣いても、誰も助けてくれなかった。

どんなに怒っても、その矛先を向ける相手は目の前にいなかった。







だが、夏美には健一がいた。







冬彦にはそれが、悔しくて、悲しくて、辛かった。











しかし、それ以上に、嬉しかった。







夏美が、同じ苦しみを味わうことがなかった。


そのことが、彼にとって、本当に嬉しかった。





…だから、この涙は、きっと、嬉し涙なんだ…





冬彦はそう思って、涙を拭った。
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