「キカイ」の子
「連れていくことは、許可できる…だけど、海の中に入ることは許可できない。」






健一は真剣な顔をしていた。





「…やっぱり…」




夏美が、肩を落としながら言った。




「夏美ちゃん…気持ちは分かるけど…今の君に海水浴は危険なんだ。」




「うん。わかってる…でも、最後になるかもしれないから…」






夏美がそう言った後、その場の全員が黙った。





「……そうかもしれない。でも、僕は夏美ちゃんに、少しでも長く生きていて欲しい。…たぶん、彼もそう思っている筈だよ?」






健一は言い終わると、冬彦の顔を見た。



夏美は下を向いたまま、


「それは…そうですけど…」


と不服そうに言った。



「とにかく、連れていくことしか許可できない。」







夏美は、深いため息を吐いて、ソファーにもたれかかった。

その目はどこか遠くを見ていた。






彼女の手の中にある、ミックスジュースのパックは、もう空になっていた。
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