「キカイ」の子
冬彦は胸の痛みに顔を歪めたが、床に顔を向けていたので、聡達に気づかれることはなかった。







冬彦が黙っているので、聡が質問を変えた。







「誰と行ったんだ?一人ではないだろう?」




「………透と…です。」






冬彦は、夏美のことを話すわけにはいかないと、とっさに嘘をついた。







その時、また、彼の胸が痛んだ。






冬彦の答えに、聡はまだ納得していない様子だった。






「宮瀬さんの息子さんと…?」





冬彦は、嘘がバレやしないかと体を強張らせた。











「聡さん…もういいんじゃありません?冬彦も反省していることでしょうし…」




話が膠着状態になったので、郁恵が口を開いた。





「う、うむ。…いいか、冬彦…今おまえは受験生なんだ。それに、高椿という家の人間でもある。


それらを忘れて、遊びほうけてはいけないんだ。わかるな?」




郁恵は聡の話の途中で、何回か頷いていた。





「…はい…」







聡の言葉を黙って聞いていた冬彦は、小さく二度目の嘘をついた。
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