「キカイ」の子
「うん…。ごめんね…かず子さんに嘘つかせちゃって…」




夏美は尾野を見ずに、悲しい目で外を見ていた。






「いいんだよ、私はね。でも…冬彦くんに何も言わないのかい?」





「うん…」





夏美はそう言うと、黙ってしまった。






尾野は、困ったような顔で彼女を見ていたが、しばらくすると、何も言わずに部屋のドアを閉めた。






夏美はそれも気にとめず、外を見続けた。






「…冬彦。」





彼女の視界に、家へと続く坂道を上る冬彦の小さな後ろ姿が見えた。







「冬彦はかっこいいんだからさ…新しい彼女もすぐできる…よ…」








遠ざかって行く冬彦の姿を見ながら、夏美はそう呟いた。







彼女の潤んだ視界の中で冬彦の姿が滲んでいた。
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