「キカイ」の子
「おはよう、鍬原さん。」






二人のやりとりに加われず傍観していた冬彦が、やっと口を開いた。




「うん、おはようっ!」




話し掛けられて、透から目を離した夏美が笑顔で元気に答えた。





彼女も透と同じく、冬彦のことを「天才」と呼ぶ人だった。




「そうだ!ねぇ、高椿君、後で数学のノート見せて!昨日の宿題どうしても解けなかったの!」





夏美は目を閉じながら、まるで冬彦のことを拝むように、顔の前で手を合わせた。





「え?いいけど…」


「ホントに?ありがとう~」







夏美が喜んでいる隣で、透が冬彦に耳打ちした。しかし、それは形だけで、声はわざと聞こえるように大きめに話していた。





「気をつけろよ。夏美に貸したノートはぐしゃぐしゃになって返ってくるらしいぜ…」




夏美はまた透を睨み、



「あんたを今ぐしゃぐしゃにしてあげようか?」



と低い声で言った。



「や、それはまたの機会に……」




透はそう言って、片手を挙げ、冬彦の後ろに隠れた。
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