「キカイ」の子
冬彦は黙って、肩を震わせて嗚咽を漏らす透を見ていた。







「…冬彦……頼むよ…頼むから、夏美の所に行ってくれ…」




透は、冬彦を見ないで、聞こえないほどの小さい声で言った。







「…………透。」






冬彦はそう言って、弛みきった透の腕を軽く振り払った。








手を振り払われた透は、顔を上げて、冬彦をすがるように見た。







「わかったよ、透。……僕、夏美に会いに行くよ。」







冬彦は、力のこもった目で、透を真っ直ぐに見つめて言った。







その言葉を聞いた透は、顔に笑みを浮かべた。






その目から、一筋の嬉し涙が流れ落ちた。









「ありがとう…冬彦。……ありがとう。」






透は頭を下げると、何度も礼を述べた。






冬彦は、照れ臭そうな顔で、頭を掻きながら、



「や、やめてよ。透が言うと…何か気持ち悪い…」



と言った。










「…なんだとー!」





透の怒った声と冬彦の笑い声が、夕焼けに染まる屋上でこだました。
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