「キカイ」の子
「正直言うとね、今さっきまで怖かったんだ。夏美に会うのが…」





冬彦がそう言って、うつむくと、夏美は怪訝な顔をした。





「それならなおさら、なんで会いに来たの?」







「……泣いてたから。」






「え…?」







「僕が最後に見た夏美は…泣いてたから……それを、僕と夏美の最後の思い出にしたくなかったから…」





「……だからって…」



夏美が呆れたような声を出したのに対して、冬彦は落ち着き払った声を出した。






「うん。そんなのは、単なる理由付けだよ。夏美が泣いてたからとか、二人の思い出がどうだとか…」







「じゃあ…なんで?」






夏美は少し苛立っていた。







「僕が夏美に会いたかったから。」







「えっ?」






今度は、夏美は苛立ちを忘れ、固まっていた。








「僕が、単に夏美に会いたかったんだ。例え、夏美が僕のことを好きじゃなくてもね…」






冬彦は、最後の方はトーンを落として話したが、夏美は依然として固まっていて、彼を気遣う様子は見られなかった。
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