「キカイ」の子
しばらくの間、夏美の病室に静寂な時間が流れた。







その空間を破ったのは、冬彦だった。




「やっぱり…迷惑だったかな?」







夏美は黙ったまま、うつむいている。






冬彦はそんな彼女の様子を見ると、悲しい表情を浮かべて話を続けた。








「…そうだよね…好きでもない人が見舞いに来ても…邪魔なだけだよね…」








冬彦は、そう言うと、椅子から立ち上がり、目を合わせようとしない夏美を見ながら話した。









「……夏美、ごめんね。…夏美が僕を嫌いになったとしても、僕はまだ夏美が…好きだから…君に元気になってもらいたかったんだけど……逆効果だったみたい…もう…帰るよ。」








冬彦は、暗い顔でそう言って、夏美に背を向けた。








そして、冬彦は夏美から離れようと、歩き出した。








ガシッ…








「……んっ?」









しかし、冬彦は進むことができなかった。








彼が不思議に思って、振り返ると、夏美の手が自分のシャツの裾に伸びて、強く握りしめているのが見えた。
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