「キカイ」の子
「え……?」



夏美は冬彦の話についていけずにキョトンとしていた。



「冬彦、何、言ってるの?」





「ここから出よう、夏美。」




「そんなこと…出来るわけ…」



もう一度、ハッキリと告げる冬彦から目を離し、夏美は横目で健一を見た。




健一は何も言わずに、まだ二人に背を向けていた。





少しの沈黙が病室内に充満する。







すると、おもむろに健一が口を開いた。




「僕は医者として、夏美ちゃんに出来る限りのことをしてきた……だが……君の病を治すことは…出来なかった…」




健一は窓の外を見ながら、固く拳を握りしめ、声を震わせていた。



「健一さん……」




夏美は小さな声を健一にかけたが、彼は何も答えなかった。





「…彼と…行きなさい。」






そう言った健一の頬の上を、月明かりに照らされた一滴が流れた。
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