「キカイ」の子
…父さん…僕はあなたの本当の子供でなかったのかもしれない…




一歩一歩、冬彦はゆっくりと歩んで行く。




…でも、僕にとって、あなたは……本当の父親だと思います



彼の後ろでは、高椿邸が、徐々に朝靄の向こうに消えていく。





…夏美の言う…いつかは…もう来ないだろうけど…



…僕は、あなたがそのいつかの世界の中で笑っているだろうと信じて…逝きます…



冬彦の歩いた跡には、滴の小さな染みが出来ている。





…面と向かっては言えないから…ここで最期に本当の気持ちを言います…





父さん……今まで……育ててくれて……本当に…










「……ありがとう……ございました……」













背中にいる夏美にさえ聞き取れないほど小さな冬彦の声は、彼の後ろにある高椿邸や滴の跡と共に、朝靄の向こうへと消えていった。
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