「キカイ」の子
「ここ…なつかしいね…」


「……うん。」





まだ一年も経っていないのに、二人には、この場所がまるで遠い昔の思い出の地のように感じられた。








……あれから…色々起きた……本当に…色々…






冬彦は切なさを覚えながら、ゆっくりと大木の前へと歩き、そこに夏美を座らせた。






「…大丈夫?」



そう言いながら冬彦は彼女の隣に座った。





「……少し…寒い…」



夏美はそう言って両足を抱え込み、小さく丸まった。





「冬彦は……寒くないの?」




「……少し…寒いかな」



冬彦はそう言って、夏美に引っ付いた。




冬彦の制服の上着を二人並んで羽織るような形になった。








実際には、彼は寒くなど無かった。



ただ、夏美とくっつくための理由が欲しかった。











二人がしばらく話さなかったため、しんとした空気が辺りに漂っている。








辺りはそろそろ明るさを帯び始め、辺りに立ち込める朝靄はその光を所々で跳ね返し、二人の回りを穏やかな光のカーテンが囲んでいた。










「…冬彦…どうしてここに?」






ポツリと夏美が冬彦に語り掛けた。
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