「キカイ」の子
夏美が息を引き取ってから、十分ほど時間が過ぎた。








冬彦は、顔を彼の肩にもたれかけた夏美をチラッと見る。









その顔は、本当に眠っているようだった。








冬彦は、夏美とは反対側の手で彼女の頬を撫でようと手を伸ばす。











だが、思うように行かなかった。












体のあちこちから、油を切らしたような、鈍い機械音が聞こえる。









……もう……駄目か…











冬彦は、伸ばした手を元へと戻し、空を見上げて目をつむる。











これまでの、本当に短い人生がまぶたの裏を走り回る。













しかし、その走馬灯を白い霧が囲い始めた。













彼は恐ろしくなかった。










一度、この冬彦は死んでいるからだろうか、と少しふざけたことも考えられるほど、彼には余裕があった。















しかし、走馬灯の中に見た、一つの記憶が彼を唯一不安にした。
< 351 / 363 >

この作品をシェア

pagetop