この歌は君だけに
「え…?」
目を白黒させながら腕の先を辿ると、まっすぐにこちらを見据える小林さんと目が合う。
目は真剣だが、口の端には先程見せたような悪戯っぽい笑みを浮かべてる。
「えっと…まだ何か…?」
真っ直ぐ過ぎる瞳から視線をずらしながら聞くと、彼女は微笑んだ形のまま口を開く。
「美沙は私の親友で、美沙にとってあなたは王子様みたいな存在なんです。意味…分かりますよね?」
心臓が鷲掴みされたようにギュッと縮んだ、気がした。
「買い被らないで下さいよ…」
我ながら情けない声が出る。
「王子様」なんて、買い被り以外の何物でもない。
俺は逃げたのだ。
弱い人間なんだ。
しかし、そんな俺に小林さんが真っ直ぐな瞳で語り続ける。
「美沙は…大人しくって、いつもニコニコして周りに合わせてあげるような、優しい子なんです。そんな美沙が、唯一譲らないこと、声を大にして主張すること、なんだか分かります?」
小林さんの問いかけに俺は小さく首を振る。
嘘だ。本当は分かっている。
彼女の答えを、彼女がこれから語る事柄を。
ただ、それを思い知りたくないだけだ…
「あなたですよ、『マキ様』」
そう、彼女の口から溢れた想像通りの言葉。
長く呼ばれなかった、もう一つの俺の名前。
10年以上眠っていたのに、今夜だけで二度目だ。
俺の中に眠っていた『マキ』が、ごろりと寝返りを打つ。
同時に沸き出る、奴の夢から洩れ出た記憶の残滓――。
目を白黒させながら腕の先を辿ると、まっすぐにこちらを見据える小林さんと目が合う。
目は真剣だが、口の端には先程見せたような悪戯っぽい笑みを浮かべてる。
「えっと…まだ何か…?」
真っ直ぐ過ぎる瞳から視線をずらしながら聞くと、彼女は微笑んだ形のまま口を開く。
「美沙は私の親友で、美沙にとってあなたは王子様みたいな存在なんです。意味…分かりますよね?」
心臓が鷲掴みされたようにギュッと縮んだ、気がした。
「買い被らないで下さいよ…」
我ながら情けない声が出る。
「王子様」なんて、買い被り以外の何物でもない。
俺は逃げたのだ。
弱い人間なんだ。
しかし、そんな俺に小林さんが真っ直ぐな瞳で語り続ける。
「美沙は…大人しくって、いつもニコニコして周りに合わせてあげるような、優しい子なんです。そんな美沙が、唯一譲らないこと、声を大にして主張すること、なんだか分かります?」
小林さんの問いかけに俺は小さく首を振る。
嘘だ。本当は分かっている。
彼女の答えを、彼女がこれから語る事柄を。
ただ、それを思い知りたくないだけだ…
「あなたですよ、『マキ様』」
そう、彼女の口から溢れた想像通りの言葉。
長く呼ばれなかった、もう一つの俺の名前。
10年以上眠っていたのに、今夜だけで二度目だ。
俺の中に眠っていた『マキ』が、ごろりと寝返りを打つ。
同時に沸き出る、奴の夢から洩れ出た記憶の残滓――。