この歌は君だけに
 騒がしい店内で一際大きな声で騒ぎ立てる、若いとは言えない男が二人…。


 「でぇ、その子がまた凄い美人だったんですよぉ~…」
 「そんなら何でモノにしなかったんだ、勿体ねーなぁ!」
 そう言って居酒屋中に聞こえるのではないかという声量でガハハハと笑い声を響かせる。

 付き合いとはいえ、酔えない俺にとって同僚との酒の席は苦痛でしかない。
 どんどん声が大きくなり、会話の内容に遠慮が無くなってくる…そんな典型的な酔っ払いの会話は、自分も同じ状態でない限り普通は耐えられないだろう。

 今日も俺が二人分介抱しなきゃならないのか……絶望的な気分になりながらレモンサワーを一口、口に含む。

 その時、俺が背を向けている衝立の向こう側から、聞きたくもない話題が聞こえてきた。

 「だーからぁ、あんな男全っ然!マキ様に比べたら全然っ、魅力ないんだからぁ!」

 大方男にでも振られたのだろうか、ヤケになったような若い女性の声。
 振られたのは御愁傷様だが、当て付けの陰口に他人の名前を出さないで頂きたい。

 連れの女性が宥めてるらしい声もするが、目の前の二人がうるさすぎて全く聞き取れない。


< 2 / 13 >

この作品をシェア

pagetop