この歌は君だけに
「お姫様だっこ、ですか…」
目の前の女性はそう言って苦笑するが、他に上手い運び方が思い付かない。
別に変な所を触ってる訳でも無いし、やましいつもりもない。
「どうぞ。」
そう言って入り口の引き戸を開けてくれた彼女に礼を言って蟹歩きで先に出る。
すぐに後ろについて出てきた彼女が戸を閉め、隣に並ぶ。
「あ、私、小林勇気って言います。」
いきなりの自己紹介に驚いて彼女を見ると、少し悪戯っぽく微笑んでいる。
「こんな事になったのも何かの縁かなって思いまして。」
私もちょっと酔ってるのかな、と独り言のように言う彼女が感じ良くて、俺も釣られて笑顔になる。
「真野…真野春樹です。」
おずおずと此方も名乗ると彼女の目が先程より大きくなる。
「あの…もしかしてこの子…」
『この子』とは俺の腕で眠り続けるこの人の事だろう。
「はい、俺の名前聞いて座敷から下りてきたみたいです。」
「じゃあやっぱり…」
「ええ、元歌手です。」
そう答えてやると彼女―小林さんはふぅと息をついた。
「ほんとに召喚しちゃったんだ…」
「え?」
不可解な言葉に聞き返すと、彼女も無意識だったんだろう、慌てて弁解してくる。
「いや、この子―相羽美沙って言うんですけど、レストランとか居酒屋来るといつも言うんですよ。『ここにたまたまマキ様来たりしないかな』って。」
そこで流れたマスカラに気付いて指で拭いてやりながら、彼女はもう一つ溜め息をついた。
「いっつも『そんな偶然有る訳ないよ』って言ってやってたんですけど…こんな事って有るんですねぇ…」
何か返すべきかと思い口を開くと同時に、角を曲がって来たヘッドライトに照らされる。
タクシーのお出ましだ。
目の前の女性はそう言って苦笑するが、他に上手い運び方が思い付かない。
別に変な所を触ってる訳でも無いし、やましいつもりもない。
「どうぞ。」
そう言って入り口の引き戸を開けてくれた彼女に礼を言って蟹歩きで先に出る。
すぐに後ろについて出てきた彼女が戸を閉め、隣に並ぶ。
「あ、私、小林勇気って言います。」
いきなりの自己紹介に驚いて彼女を見ると、少し悪戯っぽく微笑んでいる。
「こんな事になったのも何かの縁かなって思いまして。」
私もちょっと酔ってるのかな、と独り言のように言う彼女が感じ良くて、俺も釣られて笑顔になる。
「真野…真野春樹です。」
おずおずと此方も名乗ると彼女の目が先程より大きくなる。
「あの…もしかしてこの子…」
『この子』とは俺の腕で眠り続けるこの人の事だろう。
「はい、俺の名前聞いて座敷から下りてきたみたいです。」
「じゃあやっぱり…」
「ええ、元歌手です。」
そう答えてやると彼女―小林さんはふぅと息をついた。
「ほんとに召喚しちゃったんだ…」
「え?」
不可解な言葉に聞き返すと、彼女も無意識だったんだろう、慌てて弁解してくる。
「いや、この子―相羽美沙って言うんですけど、レストランとか居酒屋来るといつも言うんですよ。『ここにたまたまマキ様来たりしないかな』って。」
そこで流れたマスカラに気付いて指で拭いてやりながら、彼女はもう一つ溜め息をついた。
「いっつも『そんな偶然有る訳ないよ』って言ってやってたんですけど…こんな事って有るんですねぇ…」
何か返すべきかと思い口を開くと同時に、角を曲がって来たヘッドライトに照らされる。
タクシーのお出ましだ。