図書館>>>異世界
★side:王子
部屋に入ってきた人物は、目深にフードを被っていたため、どんな人間かわからなかった。
ただ、体型はほっそりしているな、くらいだ。
小柄な男か、少し大きめの女か―――
とにかく、外見はわからなかった。
――伝説の、賢者ねぇ…
国のためになるのならば、何でも使う。例え人間だろうとも。
しかし本音を言えば、伝説の賢者など胡散臭い。……神官どもが聞いたら発狂しそうだが。
俺自身、どうでもいいと思っていた。
だから俺は言ったのだ。
『噂の賢者様』と。
噂はあくまで噂だからだ。
それに対して、その『噂の賢者様』は、思いもよらない言葉を返してきた。
『未だ私だとは判らない』と。
フードを取り去った人物は、細いとは思っていたが、女だった。
落ち着いた、心地のよいアルトの声。
強い意思を秘めた眼差し。
何より、夜空を溶かしたような髪色と、長い前髪からのぞく同色の瞳に、俺は胸を撃ち抜かれた。
―――何と美しいのだろうか。
今まで見てきた女は、うんざりするほど同じような態度だった。
俺は半ば女にうんざりしていた。
けれど、この娘はどうだろうか。
真っ直ぐ俺を見つめる眼には、媚びなど一切無かった。
むしろ―――俺に対して無関心な様だった。
……面白い。