雪割草
第二十三章~夜の駐車場
 次の日の朝……。

川縁の肌寒さで香奈が目を覚ますと、シローは既に出発の準備を始めていた。

土手の処でリヤカーに荷物を積み込み、手早く支度を整えていた。

 香奈は眠たい目を擦ると、「ちょっと待って!」と声を掛け冷たい川の水で顔を洗い流した。

澄み切った水面に自分の素顔を見つめた時、何を思いたったのか……。

上着のポケットから濡れ手で財布を取り出すと、壱万円札を二枚抜き取り、船の形に折り曲げて川面にそっと流した。

二艘の小さな船が、ゆっくり流されてゆくのを見送ると、土手の草村を駆け上がって行った。

 草木の朝露が透き通った水しぶきをあげた。

 香奈はリヤカーに追いつき、そのまま荷台を両手で押し始めた。

「シロー!四号線のバイパスまで一緒に行こうよ!」

 晴れやかな表情で、シローの背中に言葉を投げかけた。

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