雪割草
 頭上から男の声で、怒鳴られた。

二人は肩を窄めたまま、萎縮した首で振り向いた。

 そこには中年の小太りの男が白いゴム製のエプロン姿で、腕組みをしながら暗闇の中に立っていた。

シローは慌てて美枝子をブルーシートで隠し、頭を下げながら様子を伺うようにして言った。

「すみません!

少しの間、駐車場を借りていました。

あなたは、この店の方ですか?」

 男は腕組みしていた手を顎の先にもっていくと、

「あぁ、俺はこの店の店長だ。

レジのパートの人から怪しい人がいるから、見てきてくれって頼まれたんだ。

お前ら、こんな処で何をコソコソやってるんだ?」

 切れ長の目を更に細めた。

「実は、ちょっと生物を運んでいたもんで……。

腐ら……。」

 シローは゛腐る゛という言葉を言おうとした瞬間、腹の底から嘔吐しそうになってしまい、顔を伏せ黙り込んでしまった。

代わりに香奈が庇うようにして、

「ごめんなさい!スーパーの氷を少し分けて貰っていたの」

 哀願して男に縋り、地面に跪き両手をアスファルトに突いた。

「ねえ!お願い。見逃して!

この人、どうしても福島まで行かなくちゃならないの!」

 男は香奈の話しに耳を疑った。

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