雪割草
第二十四章~雨に打たれて
 久し振りの安らかな朝を迎えていた。

深い眠りの後にやって来る、浅い眠りの微睡みの中ーーコンコンと窓を叩く音でシローは目を覚ました。

車の窓を開けてみると、外には昨日の男が立っていた。

「そろそろ配送に出掛けなくちゃならん。

悪いが……。」

 男は上着のポケットからトラックの鍵を取り出した。

鍵が擦れる音がして、時が迫っているのを知らせた。 

軽く会釈をしてから、シローは運転席から静かに降りると、

「本当にありがとうございました。

とても、助かりました。」

 朝方の霧がお互いの顔をぼやけさせていた。

「ふわ~。今なんじ~」

 香奈も目を覚ましたらしく、大きくあくびをしていた。

「今は、もう朝の七時だ」

 男は手に持っていた買い物袋を、助手席の香奈の方へ放り投げた。

寝ぼけ眼でそれを受け取り、袋を開けてみると、中身はパンが入っていた。

「うわ~、ありがとう」

 ようやく目を覚ましたようだった。

勢いよくトラックから降り立ち、袋に入っていたパンの匂いを嗅いだ。

「また、余り物だよ」

 付け加えるようにして男は言った。


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