雪割草
 シローは何度もお辞儀を繰り返した。

「本当に、何から何まで……。

なんて、お礼を言えばいいのか……。

ありがとうございます」

 唇を濡らしたまま、最後に気になっていた事をひとつ訊いてみた。

「どうして……。

どうしてーーこんな俺達みたいな者に、そんなに良くしてくれるんですか?」

 ずっと、頭を下げたままだった。

男はトラックのエンジンをかけると、二・三回吹かしながら窓から首を出し、

「俺も福島の生まれだ!

頑張って辿り着けよ!おっさん……。」

 車のギアを゛ロー゛に入れた。

「あっ!それから途中で氷が無くなったらうちの系列のスーパーに行け、話は通しておいてやる!」

 シローに自分の名刺を渡すと、そのままトラックで走り去って行ってしまった。

白く浮かぶ排気の煙が残った。

二人は暫くトラックを見送っていた……。

ウィンカーが点滅し、交差点を右折して行くのを見届けると、

「そろそろ、行くか……。」

 シローがポツリと呟いた。

香奈も静かに、こっくり頷いた。

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