雪割草
 野木の街を後にして、二人は四号線を福島に向かってリヤカーを引いていた。

黙々とシローがハンドルを握り締め歩いていると、荷台を押している香奈が鼻歌のように話しかけてきた。

「ねえ、シロー。

世の中には善い人っているもんなんだね!

人は見かけによらないっていう事か……。」

 パンの入った買い物袋をぶらぶらとさせている。

シローは片足を引きずりながら、神妙な顔つきをすると、

「あぁ、そうだな……。」

 一言しか返さなかった。

そのぶっきらぼうな返事に、香奈は少し頭にきたようだ。

「ちょっと!人の話ちゃんと聞いてる?」

 怪訝そうな顔をして頬を赤く膨らませた。

「あたしが今まで出会って無かっただけなのかなー。

ちょっと、大人を見直したなー」

 後ろを振り返り、野木の街を見下ろした。

シローは香奈の後ろ髪を見つめ、

「大丈夫だよ。

香奈ちゃんも、けっこう……。」

 それ以上は香奈が調子に乗ると思い、言葉を心の中に隠して口を噤んでしまった。

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