雪割草
 駅前のロータリーに着くと、雨宿り出来そうな場所を探して周りを目で伺っていた。

雨足は弱まってきていたが、強風は治まる気配が無く、今夜は近くで夜を過ごさなければならいと考えていた。

 二人は慌ただしく行き交う人や車の先に視線を伸ばした。

 すると、香奈が何か不審な物を見つけたらしく、シローの袖口を掴んできた。

「ねえ、ねえ!シロー。

あの人、なんか変じゃない?

すっごいプルプル震えてるよ!」

 指差された方向には歩道橋があり、怪しげな男の影が欄干に手を突き、震えながら車道を見下ろしているのが判った。

不思議そうにその光景を見ていると、

「あの人何してんだろうね。

あんなに震えて寒そうだね……。」

 香奈の言った台詞は同意を求めているようにも聞こえ、それとなく奥歯には深い慟哭があるように感じた。

シローもなぞるようにして歩道橋を見上げ、

「香奈ちゃん、これをあの人に掛けてきてあげなさい」

 自分の上着を脱ぎ始めた。

「えっ!いいの?

それって、美枝子さんが作ってくれたジャンパーじゃん!」

「いいんだ!美枝子も分かってくれると思うよ……。」

 上着を香奈に手渡すと、荷台のブルーシートに挨拶ほどの視線を送った。

「分かったよ……。」

 香奈も渋々承諾した様子で俯き、歩道橋を駆け上がって行った。



< 122 / 208 >

この作品をシェア

pagetop