雪割草
 宇都宮駅に着くと、改札口近くの雑踏の中に香奈は翻弄された。

ずぶ濡れの彼女の体は、異様な殺気に満ちていた。

行き交う人々にかき消されないように、大きく足音を鳴らしながら駅の構内を走った。

改札口の駅員に駆け寄り……。

「スイマセン!この辺で薬局ないですか?」

 香奈の足元は頼りなく、宙ぶらりんの腕は知らぬうちに駅員の腕を掴んでいた。

「隣りの駅ビルの中にありますよ」

 呆気にとられた駅員は、顎でしゃくるようにして答えた。

「ありがとう!」

 香奈は身をひるがえし、駅ビルへと急いだ。

すぐに隣り合わせのビルの中に滑り込み、首を左右に振りながら薬局を探しまわっていた。

一階フロアの奥にこじんまりとした薬局を見つけると、すぐさま風邪薬の陳列棚に手を伸ばした。


 そこで香奈はある事に気付いた……。

゛あれ、そういえば……。゛

自分のポケットから財布を取り出し、中身を確認してみる。

゛二百五十円しかない!゛

陳列棚を見てみると、一番安い物でも千三百円の値札が付いていた。

゛くそー、こんな事になるんだったら、二万円川に流すんじゃなかったよ゛

香奈は寒さからなのか、焦りからなのか足踏みをしていた。

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