雪割草
 ここに居ても埒があかない……。

香奈はその場を後にして、出入り口の自動ドアを抜け表に出ていった。

通行人の傘から滴る雨をかいくぐり、シローの為に走り続けた。

 駅前のロータリーに来ると、バス停の行列に駆け寄り先頭の人に頭を下げた。

「すみません!千五十円貸して貰えませんか?」

 上目使いにして、お願いしてみる……。

「……………。」

 無視されてしまった。

二人目……。三人目……。四人目……。五人目……。

誰一人として首を縦には振ってくれなかった。

込み上げてくる悲しさの前に、香奈は鼻をツンとしてそれを堪えた。

濡れた前髪をかき揚げてからトボトボと歩き出し、週末の賑わう宇都宮の街を眺めていた。

もう世間は忘年会シーズンなのだろうか。

酔っ払いのサラリーマンとすれ違い、肩がぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい」

 かすかな声で謝り、立ち止まる男の顔を見上げた。

気にも留めていない様子のサラリーマンを前して、香奈は藁にもすがる思いで声をかけた。

「すいません!お金貸して下さい!」


  
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