雪割草
 「えっ!いくら?」

 言葉の語尾が上がり、男はニヤついていた。

「あの……。千五十円でいいんですけど……。」

「ふーん……。」

 男は目踏みするような目つきで香奈を見つめた。

「いいよ」

 ぐるりと香奈の肩に手を回してきた。

どこかに行こうよーー。というような馴れ馴れしい態度と口の動きだ。

「やめてよ!」

 手を振り払いのけ、

「バーカ」

 呆れ顔でポケットに手を入れ歩き始めた。

見知らぬ街の見知らぬ人々、彼らの日常が遠い外国の世界に感じた。

 途方に暮れながら歩く香奈の前に、駅前の交番が現れた。

暗闇の中にぼんやりと灯りが映える、香奈は思わず吸い込まれてしまいそうになってしまった。

ふと、交番の警察官と目が合うと、そこで立ち止まり引き返すことにした。

 天を仰ぎ雨粒に目を細めていると、さっきのサラリーマンの顔が浮かび、ポケットから携帯電話を取り出し、ブックマークを開いてみた。

゛ハアー……。゛

 溜め息をつき携帯電話を閉じた。

その時、香奈の気力も尽きてしまった。

つまりは、そういう事だ。

結局、世の中なんてそういうもんなんだ……。

肩を落としながら歩く彼女の背中は、雨の暗闇の中へと同化していったのだった。

< 129 / 208 >

この作品をシェア

pagetop