雪割草
 気が付くとーー駅ビルの中のさっきの薬局の前に立っていた。

閉店間際なのだろうか、人影はまばらだった。

 香奈は店内に入っていき、風邪薬の棚の前に立ち尽くしていた。

目の前の風邪薬を手に取ってみる。

少し強く握ってしまい、箱が潰れかけてしまった。

周りを見渡し、薬箱の裏面を見ている振りをした。

ちょうど店の店員はレジのカウンターで、下を向きながら帳簿を付けているところだった。

゛今だ!゛

 香奈は袖口の中に風邪薬を隠した。

手首の辺りに四角い箱が納まった感触を確かめ、レジの横をそそくさと通り抜け、店員の方を横目でチラリと見た。

 出口の自動ドアまでは五メートル程あるかないか……。

香奈は平常心を保ちながら、出口に向かって歩いた。

あと、四メートル……。

店員はまだ気付いていない……。

あと、三メートル……。

心臓が高鳴った……。

あと、二メートル……。

脇の下に冷たい汗が走った……。

あと、一メートル……。

次第に小走りになっていく……。

あと、五十センチ……。

自動ドアが開いた……。


その瞬間!

「ちょっと!」

 後ろから腕を掴まれた!


゛チッ!しくじった!゛

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