雪割草
第二十六章~プラットフォーム
 香奈は俯いたまま振り返り、小刻みに震える背中を丸めていた。

落とした視線の先には男性物の革靴が映っている。

黒くて大きな足だった……。

腕を掴まれ店内に連れ戻されてしまうと、

「ゴメンナサイ……。」

 下を向いて謝り続けた。

髪の毛の先から雨の雫が落ちてゆく……。

それは、床の上で小さくはじけていった。

 男は香奈の手を手繰り寄せるようにしてから、耳元に小声で囁いた。

「ちょっと、貸してごらん」

 おもむろに袖口から風邪薬を奪い、レジのカウンターへと歩いていった。

香奈は顔を上げ、後ろ姿を目で追うようにして息を止めた。

白髪混じりのその男はスラッとした長身で、手には黒いカバンを持っている。

レジでお金を払っているところをみると、店の関係者ではないようだった。

香奈はもう一度、男の後ろ姿を凝視した。

゛あれ……。

あのジャンパー……。

シローのジャンパーだ……。゛

 目を凝らして男の横顔をよく見てみると……。

゛あっ、歩道橋の……。゛

 頭の中が一旦白紙に戻され、その後に歩道橋の男と目の前の男が重なり合ってゆく。

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