雪割草
 いつもと違う電車の窓から見える景色は、新鮮な物ばかりでした……。

ゆったりとシートに身を沈めながら、自分の人生を振り返っていたんです。

妻のこと……。

仕事のこと……。

そしてまた違う電車を乗り継いでいると、いつの間にか宇都宮まで来ていました……。」

 男は静かに目を閉じ、思い出すようにして話を続けた。

「私はこの見知らぬ土地で、自分の人生の幕を閉じようと思いたちました。

そうすれば、妻も嘆き悲しんでくれるのではないか……。

そう思い込んでしまったんです。

あの時私は歩道橋の上に立ちながら、ずっと車道を通り過ぎて行く車を見下ろしていました。

よし、あの白い車に飛び込もう……。

いや、次のトラックに飛び込もう……。

やっぱり、赤い車が来たならば、それに飛び込もう……。

私は全身に恐怖を感じ、震え始めていたのです。


ちょうど、その時でした……。

あの女の子が私にジャンパーを掛けてくれたのは……。

私は人と触れ合う事で、やっと我に帰る事が出来ました。

そして、宇都宮の街をふらついていたところ、偶然あの子を駅前で見掛けたんです。

あの子に出逢わなければ、私は今ここにこうしているかどうか……。」

 男の手先がまた少し震え始めていた。

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