雪割草
 男の目には涙が溢れていた。

年甲斐もなく、涙を浮かべた事が恥ずかしかったのかもしれない。

すぐに男は会話の隙間を埋めようとした。

「申し送れました。

私は上田といいます」

 目尻を手で擦りながら言った。

「俺はシローです。

あの子には古臭い名前だと、笑われてしまいました」

 頬を緩ませ、子供とはしゃぐ香奈の方を見ながら言った。

「あの女の子の名前は?」

 上田も香奈を見ながら、不思議と心が落ち着いてゆくのを感じた。

「あの子は香奈です。

ひょんな事から、一緒に旅をする事になってしまいました」

 シローはゆっくりと立ち上がり、背伸びをしながら言った。

すると上田も立ち上がり、子供達と手を繋ぎながら笑う香奈に向かって、大きな声で言った。

「香奈ちゃん!

右にするか、左にするかジャンケンしようよ!」

 香奈はキョトンとしながら、首を傾げていた。

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