雪割草
 通りすがりの女性は散乱した氷を拾い集めると、

「この近くに病院があるから!

どれ、あたしが車で連れて行ってあげるよ!」

 そう言い残し、氷の入った買い物袋を上田に手渡すと、駐車場の迷路の中へと消えて行った。
 
シローと上田はとりあえず、腫れ上がった足首に氷を当てがい様子を見ていた。

 顔を歪め座り込む香奈の元へ、赤い軽自動車が止まった。

さっきの女性だ。


「ほら!早く!」


 ウィンドウを開け手招きをした。

上田は香奈をおんぶしながら、

「俺も付いていきますから、シローさんここで待っていて下さい」

 車の助手席に乗り込んだ。

シローも自分は行かない方が懸命だと考え、その場に残ることにした。

それでも、心の中では落ち着かない心配性の虫が騒いだ。

俺に付いてこなければ……。

車のテールランプを見送りながら、口元から小さく出た言葉は、シローの額のあたりでフワッと消えた。

すぐに自分で背負い込む。

それが、シローの良いところでもあり、短所であるのかもしれない……。

とにかく、シローは待つ事した。

ひんやりとした空気に包まれ、呆然と立ち尽くす時間と同じ分だけ時が流れた。

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