雪割草
 北風が広い駐車場を何度も駆け抜けていった。

シローが冷えた指先を上着のポケットに突っ込むと、何やら硬い感触を感じた。

チュンサンから貰った煙草だった。

手持ち無沙汰でシローは苦い煙草に火を着けてみた。

吐いた息と煙りが混じり合い、白く漂っていく……。

シローは二本目の煙草に火を着けた……。

そして、三本目の煙草に火を着けようとした頃……。

急停車のブレーキの音と共にタクシーが止まった。

後部座席のドアが開くと、上田が降り立ちゆっくりと歩いて来る。

その横には香奈の姿もあったが、足を包帯でぐるぐる巻きにされ、簡単に乗り降り出来そうにはない。

 上田はシローに近き、診察の結果を報告した。

「亀裂骨折だそうです。

親御さんには連絡を入れておきました。

近くの駅まで迎えに来てくれるそうです」

 シローは上田の顔を通り越して、香奈の横顔を見つめた。

「だいじょうぶか?」

 それを言うのが精一杯だった。

「うん、大丈夫だよ」

 香奈はうやうやしく微笑んで見せた。

上田はもう一度タクシーに乗り込み、運転手に行き先を告げているようだ。

「このまま、四号線のバス停まで送っていきますから。

シローさんはどうします?」

 窓ガラスを開け、シローに言った。

「追いかけます」

 シローは強く頷いた。

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