雪割草
 四号線のバス停に着くと、香奈が一人でベンチに座っていた。

傍らには松葉杖が立てかけてあり、足首の包帯が痛々しく見えた。

それでも清々しい表情で、夕日を目でなぞっている。

シローが隣り合わせに腰を下ろすと、香奈は気付いたように、

「おっ……。」

 と声を漏らした。

 「上田さんは?」

 そう言って、シローは辺りを見回した。

「知らない。煙草でも吸いに行ったんじゃない……。」

 気を利かしてどこかで時間をつぶしているのかもしれない。

 四号線の車道には渋滞した車のヘッドライトが並び、オレンジ色の河のように見えていた。

バスは少し遅れているらしい……。

「ごめんね」

 口火を切ったのは香奈だった。

「ん?」

 シローは香奈の顔を覗き込むようにして訊いた。

香奈はちょっぴり避ける振りで顔をさげた。

「一緒に福島に行けなくなっちゃった……。」

「ふふっ」

 シローは口の端を緩ませ、

「別にかまわないよ」

 反対側に顔を逸らした。

「あのね……。」

「ん?」

 バスはまだ来なかった。

近くに停めたリヤカーのブルーシートが、風にパタパタとなびいていた。

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