雪割草
 香奈はベンチと太ももとの間に自分の手を差し込み、体を揺らしながら言った。

「あたし……。

この三日間、ずーっとシローの背中を見てたよ……。」

 シローはうん、と頷き肩をすくめた。

「リヤカーの荷台を押しながら、一生懸命前に進もうとするシローを見ていたら、あたしも頑張らなくちゃって思った。

家に帰ったら、学校にも戻ることにするよ。

あの娘達のイジメも恐いけど……。


ほんとはね……。

ほんとは、ボコボコにしてやったって言ったけど、やられたのはあたしの方なんだ……。

 でも、誰もあたしの言う事を信じてくれなくて……。

ずっと、逃げてた……。」

 香奈はやっと、シローを見つめるようにして言った。

「もう、自分なんてどうなってもいいやって思ってた……。

……そしたら、

シローと出会ったの……。

シローの背中を見ていたら、なんか勇気が湧いてきた。

あたしも頑張らなくちゃって……。

ありがとう……。

ほんと、あ……。」

 遠くからバスのクラクションが二人の間に割って入った。
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