雪割草
 香奈は松葉杖を突いてスクッと立ち上がり、視線の先にトロトロと走るバスを捉えた。

「じゃあね!元気でね。

絶対、福島までたどり着いて。

あたし祈ってるから……。」

 西日が彼女の後ろ姿を覆い、以前よりも大きな存在感を漂わせていた。

栗色の髪の毛や、細くて長い足など、どこを取っても変わらない筈なのに、何かが違って見える。

ふと、そんな事を考え更けっていると……。

停留所に滑り込んだバスは、無機質に入口の扉を開いた。

「それじゃあ……。」

 香奈は不慣れな足取りでステップを跨ぎ、途中で振り向いた。

シローも立ち上がりながら、香奈を見上げた。

「上田さんにも、よろしく言っておいて!

お金借りちゃったからさ。

必ず返すって!」

「あぁ、分かったよ。伝えておく」

「あたし高校卒業したら、シローに会いに行くね。

そしたら、美枝子さんのお墓にお線香を持ってお参りに行く!

それまで、元気でいてね……。絶対!」

 シローが右手を出そうと思った瞬間、バスの扉は音をたてて閉まり始めた。

プシューと空気が抜けてゆくような音……。

 扉の間を縫うように香奈は手を伸ばして、シローの右手を握った。

「さようなら……。」

 そして、扉は閉まり、二人の手を引き裂いていった。

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