雪割草
 「あれ?」

 シローは何かを見つけたらしく、ガードレールを跨ぎ裾野の傾斜を下って林の中へと入っていった。

「シローさん!どこへ行くんですか?

危ないですよ!」

 上田は声をかけてみたが、シローの姿はもうそこには見えていなかった。

「大丈夫です!」

 ガサガサッと草木が擦れあう林の中から、シローの声だけが聞こえてきた。

 暫くすると、シローは両手に何かを抱えながら戻って来た。

「ヨイショ……。」

 ガードレールを跨いで手に持っていた紫色のサツマイモに似た奇妙な形の物を、上田に手渡した。


゛あけび゛だ!

「へえー、珍しいですね!」

 上田はまたもや感激している様子だった。

「そうですか?

子供の頃は、よく山に入っては食べたものです」

 シローはあけびの中心を割り、中から身を取り出すと、上田の顔を伺いながらペロリと食べて見せた。

上田もそれに見習い口に運ぶと、

「へえー、甘くて美味しいんですね」

 ほころぶ顔が、シローには滑稽に見えてたまらなかった。

 二人は思わぬ自然のいただき物に満足すると、

「先を急ぎましょう」

 シローはハンドルを握り歩き始めた。

「そうですね」

 上田も口を拭い歩き始めた。

 
< 151 / 208 >

この作品をシェア

pagetop