雪割草
 霜が降りていた……。

シローは目を覚まし、寒さに震える指先を、美枝子の頬まで伸ばしてみた。

昨日は美枝子を抱きしめながら眠っていたようだ。

まだ朝もやの霧の中、シローは立ち上がり歩き出した。

始発の新幹線が高架橋を走り去って行く。

地響きが鳴り渡る音。

頭の遥か上の方に、音の波は流れていった。

アスファルトには霜が張り付き、うっすら白いカーペットを敷き詰めているようだった。

その皮の面をシローは片足を引きずりながら、リヤカーを引いていた。

 四号線を真っ直ぐ進み、゛泉崎゛を抜け゛矢吹゛に差し掛かった頃、急にリヤカーのハンドルが重くなるのを感じた。

シローは嫌な予感がして、ハンドルを置き荷台の廻りを見て回った。

゛やっぱり……。゛

 タイヤがパンクしてしまっていた。

膝を地面に着きながら目を凝らしてみると、錆びた釘が右側のタイヤに突き刺さっていた。

擦り切れたタイヤの溝に、茶色い釘の頭がめり込んでいる。

すぐに抜き取り辺りを見渡したが、殺風景な国道四号線の景色の中では、近くに修理してくれそうな店も見当たらない。

もし、あったとしても修理代など持ち合わせていない。

シローは頭を抱え、途方に暮れてしまった。

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