雪割草
 仕方なくハンドルを握りしめ、そのまま歩き出してみた。

ギー、ギーと、予想以上にハンドルは重く、シローの気力と体力を奪っていった。

腕と胸の部分を使いながら、体重をかけてリヤカーを運んだ。

ここで諦めるわけにはいかなかった……。

美枝子のふるさとまでは、あと数十キロ……。

グニャリと潰れたタイヤを強引に回しながら、ありったけの力を振り絞りシローは牛歩のように歩みを続けた。

ちょうど、お昼を過ぎたくらいになっていただろうか……。

四号線を往来する車の音に紛れながら、なにやら拡声器越しの声が近付いてきた。

「い~し、や~きいも~」

 徐々に近付いて来て、シローの背中でピタリと止んだ。

気配に気付いて振り返ると、同じようにリヤカーのハンドルを握る、年老いた男が立っていた。

ニット帽をかぶり、作業ズボンに茶色のジャンパーを着たその老人は、不思議そうな目でシローを見ていた。

「あっ、すいません……。」

 シローは道を譲ろうと思い、頭を下げながらリヤカーを引っ張った。

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