雪割草
 「どうしたんじゃ?」

 シローが引いて歩く、リヤカーのタイヤを見ながら老人は言った。

「あっ、はい……。

荷物を運んでいる途中で、リヤカーのタイヤがパンクしてしまいました。

どうぞ、お先に……。」

 シローはリヤカーを端に寄せようとした。

「あんた、この辺では見ない顔だな」

 リヤカーのハンドルを降ろし、老人は腰を伸ばしながら言った。

「はい、東京から来ました。

これから岩代町まで行くところです」

「えっ?パンクしたまま東京から来たんかい?

ここから岩代町までも、けっこう遠いぞい!」

「パンクしたのは、ちょっと前のはなしです。

仕方ないので、このまま岩代町まで向かいます」

「そりゃあ、大変なこった……。」

 老人は愉快な物でも見せて貰ったよ、というふうな顔つきで、笑いとばしながらリヤカーを引いて行った。

「い~し、や~きいも~」

 今度は少し先の方で、拡声器の声が周りの景色に響いていった。

シローは老人の後ろ姿を見送ると、リヤカーのハンドルを握り、再び歩き始めた。

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