雪割草
 手のひらに゛まめ゛が出来ていた。

指の付け根部分はボコボコと腫れ上がり、ヒリヒリと神経を刺激していた。

それよりもシローを苛立せていたのは、思うように前へ進まないリヤカーの方だった。

右側のタイヤが潰れている分、どうしても右に舵を取られてしまう……。

最終的な手段として、シローはリヤカーのタイヤを外し、ホイールを剥き出しにしようとした。

道端の小石を拾い、タイヤのチューブとホイールの縁を引き離そうと試みる。

だが、それも上手くいかず、


チクショー!

 苛立ちが喉元を飛び出し、罵声となりリヤカーのタイヤを蹴飛ばした。

その場にしゃがみ込み、髪の毛をかきむしった。

通り過ぎる車の排気音と、風を切り裂く乾いた音が、次から次へとシローの頭上を掠めていった。

あと少し……。

あと少しなのに……。

 思い切り瞑った瞼の裏側を、さっきの風がくすぐってゆく。

こすばゆい感覚に目を開けようとした……。

そんな時だった……。

 立ち往生しているシローの元へ、どこからともなく呼びつける声が聞こえてきた。

「お~い!」

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