雪割草
 老婆の曲がった腰が痛々しく思えた。

来る日も来る日も畑に出ては、こうして収穫を繰り返す……。

彼女の支えはきっと、息子さんだけだったのだろう……。

「うちの息子も東京に出ておったんじゃ……。」

 シローが物思いにふけっていると、老婆が作業を再開して話しかけてきた。

「結婚して、子供も二人いたんじゃが……。

息子が死んで最初のうちは、嫁さんも子供達も、ちょくちょく墓参りに来とった……。

でも、五年前くらいかの~。

その嫁さんは再婚して……。

それ以来は、とんと来なくなってしもうた……。」

 シローは頬を手で拭い、泥を着けながら耳を傾けていた。

「でも、寂しいもんじゃの~。

やっぱり、孫には会いたいけんど……。

東京までは行けんの~。

うちらが会いに行ったら迷惑じゃろうし……。」

 老婆は少し顔を上げると、以遠の彼方を見つめた。

老婆の後ろ姿をちらりと伺った。

哀愁が漂う背中は、全てを諦めてしまっているように思えた。

今、彼女の目に映るものは何なのだろう……。

西陽に照らされた畑はいっそう光り輝いて、畦の隙間に影をもたらしていった。
< 175 / 208 >

この作品をシェア

pagetop