雪割草
 「お~い!」

澄み切った大地に大きな声がこだました。

 納屋の前から老人が手招きをしながら、呼んでいるのが判った。

シローと老婆は立ち上がり、納屋の方へ体を向けた。

小さく見える老人の姿と、その横にはブルーシートを乗せたリヤカーが並んで映った。

「直ったようじゃよ。

こっちは大丈夫じゃから、早く行きんさい」

 老婆はシローを促すように、顎をしゃくってみせた。

「でも……。」

 シローはその場から動く事は出来なかった。

仕事を中途半端にしたまま戻るのは忍びがたい……。

それに今、彼女を一人にしてはならないような気がしていた。

そんなシローの様子を察してか……。

「どれ、おらも一服しに戻るか……。」

 老婆は手に着いた土を払うと、腕を後ろに組みながら母屋の方へと歩き始めた。

仕方なく後を追うように、シローも足を向けた。

収穫したばかりのサツマイモに躓かないように、注意を払いながらのそのそと歩いた。

 母屋の前では老人がしゃがみ込みながら、リヤカーの空気圧を確認しているところだった。

二人が畑から戻った事に気がつくと、

「これで、なんとか大丈夫じゃろ。

ほれ!」

 そう言ってシローに背を向けると、母屋の方へきびすを返して行った。

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