雪割草
 歌舞伎町あたりの飲食店は、通常十二時過ぎにゴミを出し始める。

シローは少し早めに着いてしまったらしく、集積場所にはあまり段ボールが捨てられていなかった。

それでも数少ない段ボールを拾い上げ、底の部分に金具が付いていれば、それを外してリヤカーに積んでいった。

 徐々に段ボールが集まりだし、一心不乱に集積場を廻っていると、リヤカーの横を黒塗りの車がクラクションを鳴らしながら横切って行った。

「邪魔だ!バカヤロー!」

 大声で怒鳴られた。

そんな事は日常茶飯事である。

 また、飲食店ビルが建ち並ぶ繁華街の歩道を通っていると、数人の若い男女が地べたに座り込み道を塞いでいた。

シローは一旦躊躇し、気を取り直して、

「すみません……。すみません……。」

 肩をすぼめて通り過ぎようとした。

「何この人、気持ちわるー」

「汚ねえなー!あっち行けっ!」

 罵声を浴びせられた。

彼らにとってみれば、ゴミを漁る害鳥ぐらいにしか見えていないのであろう。

それでもシローは歩き続けていた。

 繁華街の出口付近に着く頃、歩き疲れて足は棒のように重く、振り向いた視線の先には普段の半分程の段ボールしか、荷台には積まれていなかった。

シローは溜め息を漏らし、額の汗を手で拭っていた。


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