雪割草
第三十四章~赤い糸
まるで亡霊でも見ているかのような険しい顔つきで、兄の武雄はシローを見つめていた。
その額に刻まれた沢山のシワの数に、長年の苦労の様子が窺える。
おそらく、その苦労の大半はきっと、悪漢な弟の前非のせいなのかもしれない……。
と、シローは思った。
兄の武雄とは、五歳ほど歳が離れている。
武雄はとても優秀であったが家計を助ける為、中学を卒業するとすぐに実家の農業を継いだ。
元々は小作人の家柄、それほど多くの土地を持っている訳でもなく、僅かな田畑を耕し清貧な暮らしを送る日々だった。
それを考えると、自分の運命というものに、とても従順な兄の姿であった。
武雄はシローに近寄り、肩をすれ違わせながら、
「入れっ」
懐に響くような低い声でそう言うと、玄関の扉を横に開いた。
武雄を追うように義姉の雅代も、シローを一瞥してからすぐ後ろに続いて歩いた。
彼女もまた、運命に逆らう事のない人生のような気がした。
雅代がこの家に遠い親戚筋から嫁いで来たのは、シローが高校を中退したばかりの頃だった。
僻地の狭い地域では、遠い血縁者同士で結婚する事はよくある話だ。
二人の哀感をそそるような背中に導かれ、シローは実家の敷居を跨いだ。
その額に刻まれた沢山のシワの数に、長年の苦労の様子が窺える。
おそらく、その苦労の大半はきっと、悪漢な弟の前非のせいなのかもしれない……。
と、シローは思った。
兄の武雄とは、五歳ほど歳が離れている。
武雄はとても優秀であったが家計を助ける為、中学を卒業するとすぐに実家の農業を継いだ。
元々は小作人の家柄、それほど多くの土地を持っている訳でもなく、僅かな田畑を耕し清貧な暮らしを送る日々だった。
それを考えると、自分の運命というものに、とても従順な兄の姿であった。
武雄はシローに近寄り、肩をすれ違わせながら、
「入れっ」
懐に響くような低い声でそう言うと、玄関の扉を横に開いた。
武雄を追うように義姉の雅代も、シローを一瞥してからすぐ後ろに続いて歩いた。
彼女もまた、運命に逆らう事のない人生のような気がした。
雅代がこの家に遠い親戚筋から嫁いで来たのは、シローが高校を中退したばかりの頃だった。
僻地の狭い地域では、遠い血縁者同士で結婚する事はよくある話だ。
二人の哀感をそそるような背中に導かれ、シローは実家の敷居を跨いだ。