雪割草
 玄関から土間に入り家の中を見渡すと、シローは時の流れを感じずにはいられなかった。

所々、改築が施されていたからだ。

昔、すすけた梁が剥き出しになっていた所は天井板が張ってあり、その中央に吊してある蛍光灯の灯りは囲炉裏ではなく、長方形のコタツを照らしていた。

「おい!何してる。早く上がれ」

 武雄がコタツに当たりながら、シローを呼んでいた。

シローは薄汚れた靴を脱ぎ、少し躊躇してから足の先を丸めるようにして床の間へと上がった。

コタツの横には座布団が用意してあったが、それを避けるようにして正座をした。

 雅代は横目に義弟を見据え、ぶっきらぼうにお茶を差し出すと、

「よくもまあ、今更になって顔が出せたもんだね!

志郎さん!あんたのせいで、うちらがどんだけ苦労したことか……。」

 息を荒あげた。

シローは頭を畳に擦りつけ、

「本当に、すみませんでした!」

 謝る事しか出来なかった。

しかし、そんな言葉ひとつで、雅代の一度決壊してしまった長年の鬱積を、抑える事など出来る訳もなく……。

「すいませんじゃないよ!

いいかい、あんたがギャンブルで借金作って逃げ出したおかげでねー。

うちは田んぼを半分以上売っちまったんだよ!

お義父さんや、お義母さんだって、私らにあんたの事を詫びながら死んでいったよ!」

 雅代の言葉がガラスの破片となって、シローの心に刺さった。

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