雪割草
第二章~秋の香り
キンモクセイの香りが漂う並木道を抜け、太陽がビルの谷間から顔を出し始める頃、男はとある路地裏の倉庫に着いていた。
表の看板には手書きのような字で『古川紙業』とだけ書かれていた。こじんまりした民家を改築して、家族で営んでいるようなーーそんな小さな会社だった。
男は裏手に回り、大きく両手に開いたドアの前にリヤカーを停め、そのまま中を覗き込み大きな声で言った。
「おはようございます」
すると、倉庫の奥に繋がっている茶の間の戸が開き、中からこの家のおかみさんらしき人が出てきた。
「あら、シローさん今日は遅かったわね」
「はい、どこかで引っ越しがあったみたいで、今日はいつもより大漁でした」
「あらそう、それは良かったわね。それじゃあ、早速数えてみましょうか」
そう言うと、おもむろに電卓をたたき始め、
「え~と、一枚三円だから……ふ~」
ぶつくさと独り言を言いながらレジスターをカチーンと開け、中から小銭を取り出した。
「シローさん、今日は九十三枚で二百七十九円だね。この調子で頑張るんだよ」
おかみさんは、シローの肩からぶら下がっている黒いカバンにお金を入れてくれた。
表の看板には手書きのような字で『古川紙業』とだけ書かれていた。こじんまりした民家を改築して、家族で営んでいるようなーーそんな小さな会社だった。
男は裏手に回り、大きく両手に開いたドアの前にリヤカーを停め、そのまま中を覗き込み大きな声で言った。
「おはようございます」
すると、倉庫の奥に繋がっている茶の間の戸が開き、中からこの家のおかみさんらしき人が出てきた。
「あら、シローさん今日は遅かったわね」
「はい、どこかで引っ越しがあったみたいで、今日はいつもより大漁でした」
「あらそう、それは良かったわね。それじゃあ、早速数えてみましょうか」
そう言うと、おもむろに電卓をたたき始め、
「え~と、一枚三円だから……ふ~」
ぶつくさと独り言を言いながらレジスターをカチーンと開け、中から小銭を取り出した。
「シローさん、今日は九十三枚で二百七十九円だね。この調子で頑張るんだよ」
おかみさんは、シローの肩からぶら下がっている黒いカバンにお金を入れてくれた。