雪割草
 新宿駅東口を一回りして、今日は帰ることにした。

ふと、シローの脳裏に美枝子の顔が浮かんだが、もう繁華街に戻れる程の気力は残っていなかった。

仕方ないーーー今日は日が悪かったと自分に言い聞かせ、シローは早めに古川紙業へと足を向けた。


 いつもより早めに古川紙業に着いてしまったシローは、倉庫のドアが開く朝六時まで、扉の前で待つことにした。

都会の喧騒から離れた場所では、すっぽりと静けさだけが包んでいった。

こうして扉の前で時間をやり過ごした事は何度もあったが、何故か今日は時が過ぎるのが遅く感じていた。


 機械的な時報が辺り一面に響き渡り、倉庫のドアが両側に開いた。

「うわっ!」

 目の前に座り込んでいたシローに、おかみさんは少し驚いた様子だった。

「シローさん、今日は早かったわね」

 おかみさんが話しかけると、

「はい、今日は雨が降るかもしれないと思って早めに家を出たんです。
それと、段ボールも少なかったもんで……」

 シローは痒くもない頭を掻いて見せた。

「あらそう。それは残念ね」

 おかみさんは一呼吸おいてから、段ボールを数え始めた。

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