雪割草
最終章~淡紅色の花
 暗い穴の底は無音であった。

これからもっと、静かな場所に旅立たなければならい。

シローは美枝子の側に寄り添うように横たわり、愛らしい横顔を見つめた。

弱々しくうなだれた上着の襟元からは、白い透き通った肌が露わになっていた。

シローは上着の中へと手を伸ばし、最後に美枝子の乳房にそっと触れようとした。

鼓動の消えた体に、震える指先が触れようとした時……。

シャツのポケット辺りに硬い感触を感じた。

手の甲に伝わる不思議な感覚……。

シローはポケットの中を弄り、何が入っているのかを確かめようとした。

果たして美枝子が何かを持ち歩いていた事などあっただろうか。

指先の感触からすると、小さな箱ような物である……。

彼女は化粧などしていなかった。

これは一体……。

取り出した手の平の中身に、シローは唖然とした。


……それは、トランプのケースだった。

あの……。

新宿の公園で二人仲睦まじく暮らしていた時の、お金を入れておいたトランプケース。

どうして、美枝子がこれを……。

さっきまで無音の世界だと思っていた場所に、自分の鼓動が聞こえだしていた。

静かにケースの蓋を開けてみると……。

中には白い便箋が一枚入っていた……。

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