雪割草
 シローは上半身を起こし、その便箋を握りしめていた。

小さく折りたたまれた一枚の便箋……。

かじかんだ手で広げてみると、美枝子が書いたと思われる文字が綴られていた。

いつ書いたものなのか、なぐり書きの大ざっぱな文字ではあるが……。

それは、確かに美枝子の筆跡だった……。


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シローちゃん。
あなたがこの手紙を読む頃には、わたしはもうこの世にはいないかもしれません。
もう二度とあなたに会えなくなってしまうのかもしれません。
それでも今、この想いを手紙に託します。
わたしは前の主人にお金を借りようとして、この家に戻ってきました。
三年振りにひょっこり現れたわたしを見ると、あの人は怒りに狂い、お金を投げつけ、暴力を振るい続けました。
わたしは二階の部屋に閉じ込められ、今は意識がもうろうとしています。
でも、必ずここを抜け出して、このお金はあなたに届けます。
あなたの元へと向かいます。
そしたら、二人で暖かいいアパートで暮らしてみたい。
きっと、楽しい毎日が待っているはずだから。
それでも、もし。
もし、わたしがあなたのところへ行けなくて。
途中で力つきてしまっても。
この世から居なくなってしまっても。
あなたは、
あなたは生きて下さい。
あなたは、やさしい人だから。
やさし過ぎる人だから。
きっと、
きっと、自分を責めてしまうでしょう。
思い詰めてしまうでしょう。
そして、わたしを追いかけようとしてしまうでしょう。
でも、それは違うわ。
間違いなのよ。
人は自分で命を絶ってはいけないもの。
誰かに愛され、生かされているの。
だって、そうでしょう?
誰からも愛されていない人など、世界中探し回ったって一人もいないわ。

わたしはあなたを愛し続けるし、あなたの周りにはたくさんの人が居るはずよ。
それに気づいて。
気付いて欲しいの。
わたしの心はあなたと一緒にあるという事を。
だから生きて。
生きてちょうだい。
約束よーー

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