雪割草
「あの~、何か用事ですか?」

 チュンサンが、その男に近づき声を掛けた。

少し動揺を見せながらも、男は声のする方へと振り向いた。

 黒いスーツにねずみ色の作業服をきたその男は、思ったよりも背が高く、シロー達を見下ろすようにして、

「あっ、皆さん、ここの人達ですか?」

 上擦った声を出しながら、一人一人に名刺を配ってまわった。


その名刺には、

゛新宿区役所 施設係

竹中 澄夫゛

 と記してあった。

 手にした名刺の裏表を見ながら、ニシヤンが真剣な眼差しで訊いた。

「ここで何をしてるんだ?
俺達が何かしたか?」

 周りが少しざわめきたった。


「いや~、実はですね。今調査をしておりまして、こういった路上で生活している人達の為に、新宿区役所の方で低所得者用のアパートを建設予定なんですよ。
それで、中央公園には何人ぐらい居るのか調べていたんです。

皆さんも、これから冬場になったら大変でしょ?」

 竹中はボールペンを間に挟み、ノートを閉じた。

「ちょっと前まではもう少しおったんじゃが、今はこの七人じゃ。

あっ!それと、この男には妻がおるから全部で八人じゃ」

 イタジイがシローを指差し、みんなを代表して答えた。



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